神話の源流へ

「神話のふるさと」を旅する

「神話のふるさと」を旅する
 712年に太安万侶が編さんした日本最古の歴史書『古事記』とその8年後に編さんされ、日本最古の正史とされる『日本書紀』。
宮崎県は、『古事記』『日本書紀』に記された神々の物語にまつわる地が多く点在するまさに「神話の源流」です。
国生み・神生み、天岩戸開き、天孫降臨、海幸山幸、そして神武東征など太古の神々が生き生きと活躍する「日本のはじまりの物語」を知って、そのゆかりの地を訪ねる「神話旅」にはどのような魅力があるのでしょうか。
宮崎県立看護大学の大館真晴教授にお話を伺いました。
「日向神話旅」宮崎県立看護大学教授 大館 真晴
 極端な話ではあるが、時折、SNSのサイトをのぞくだけで旅をした気分になることがある。
というもの、SNSでつながっている多くの知人達が、国内外の旧所名跡やご馳走の風景をいかにも楽しげに載せているからである。
 だが、これらのSNS上での旅は、よくまとまったガイドブックをながめているようなもので、どうしても物足りない気持ちが残る。それは実際の旅と比べて、見て、触れてという実感の部分が欠けているからであろう。
鵜戸神宮
 また、岩屋の中の本殿裏側には、鵜戸神宮の神使(しんし)となっているウサギの像がある。神使とは、一般的に祭神の使いとされ、伏見稲荷大社のキツネなどが有名である。鵜戸神宮では、主祭神が鵜草葺不合命(ウガヤフキアエズノミコト)であることから、その「鵜」の字が「卯」・「兎」と転じ、ウサギが神使となったという。

 さて、この「撫でうさぎ」、その名のとおり、撫でると病気平癒や開運などの願いがかなうという。よって、この「撫でうさぎ」は、多くの参拝者から頭を撫でられ、頭の部分の色が落ちている。しかし、このウサギについては、色が落ちているからこそ、神々しく気高いのである。鵜戸神宮の「撫でうさぎ」は、人々の願いを一身に受け、長年、頑張ってきたのである。多くの人々は、このウサギに手を触れたとき、願をかけるだけでなく、どことなく愛おしい気持ちになり、いつもより豊かな気持ちになっているのではないだろうか。

鵜戸神宮
 やはり、旅は実際に見て、触れて、多くのことを実感するのがよい。宮崎県内には日向神話にまつわる多くの風景や神社がある。そこに、直接、足を運び、多くの実感を得ることは、デジタル化された社会を生きる我々に、多くの潤いを与えてくれるのではないだろうか。
各地に様々な伝承や神話の世界を舞で表現した「神楽」が大切に継承され、暮らしの中に神々の物語が息づく宮崎県。
神々の物語を思い描きながらこの地を旅すれば、風景の中に、太古の神々の面影や物語を大切に紡いできた人々の想いを感じ取ることができます。
悠久の時を越え、日向の地に残る神々の物語を紐解く旅へでかけましょう。
大館 真晴

宮崎県立看護大学教授
1972年宮崎県生まれ
國學院大學大学院文学研究科日本文学専攻博士課程後期修了、博士(文学)
奈良県立万葉文化館研究協力員
主な著書に『日本書紀の作品論的研究 人物造形のあり方を中心に 』(國學院大學大学院研究叢書)、
『日本書紀【歌】全注釈』(共著、笠間書院)、『日本書紀と古代天皇の謎』 (共著、株KADOKAWA)など。