神楽に見る地域の祈り
船引神社では、県指定無形文化財である船引神楽が元旦と春分の日に奉納されます。船引神楽は、高千穂町などに伝わる夜神楽とは異なり、昼間に舞われる春神楽や作神楽と言われるものです。農業が盛んな地域であることもあって、稲作をする一連の動作が神楽の舞の中にあります。また、笛や太鼓の調子が一番ごとに違うため、神楽の一番だけを取っても、大変見応えがあるといいます。
「実は、船引神楽は明治時代に一度絶えかけたのです。しかし地元の人の“神楽を伝え続けたい”という思いが強かったのでしょう。串間神社の神楽が船引神楽によく似ていたため、少年3人が串間神社の神楽を習いに行き、そこから今日まで伝え続けています」と田代宮司は語ります。
また、毎年敬老の日には、五穀豊穣や家内安全などを祈願する“臼太鼓踊り”も奉納されています。臼太鼓踊りとは、太鼓を叩き、背中の旗をひらめかせて勇壮に舞う踊りです。太鼓の中に槍などを隠して攻め入ったという、神功皇后の朝鮮征伐の様子を表していると言われています。
参拝の際には、社殿にある2対の雲龍巻き柱を是非ご覧ください。1本の木から彫られた見事なつくりで、柱に巻き付いた龍がまるで命を持っているかのように生き生きとした表情をしています。
農業が盛んなこの地域で、五穀豊穣を祈願する“神楽”と“臼太鼓踊り”が奉納される船引神社。一年の祭事に欠かすことのできない大きな存在であり、昔からずっと変わらず地域住民の心の拠り所となっている、そういった想いの伝わる話を語ってくださいました。